通学の道も一歩から。

 本日をもって私はしがない大学生として、卒業単位なる怪物と死闘を繰り広げることになった。
 正確には一年と半年ほど前から今回の戦の火蓋は切って落とされていたのだが、どうにも私は今日に至るまで何もせず、並びに何も残さずの生活を過ごしていたらしく、この不思議な空白期間においては「ああ、何ということでしょう」とおののくばかりである。

 兎にも角にも、以降は一学生として教養ビームや専門ビームの包囲網を掻い潜り、来たる卒業論文アタックにしても然るべき対策を講じていかなくてはいけない。
 すなわち阿鼻叫喚の死線を越えていかなくてはならない。
 しかし、朝っぱらから轟々たる風雨の中、明らかに自分の体格とそぐわない傘を差してわざわざ大学へ赴いたにも関わらず、この日は台風接近に伴い午後の講義が休講となった。
 大学の構内放送で休講の旨を知ったとき、私と同じくして風雨に打たれて来た屈強な学生達は何を思っただろう。
 おそらく「畜生、寝過ごすべきだった」と自責の念としのぎを削りあったはずだ。
 かく言う私も、本来ならば享受出来たであろう睡眠時間に想いを馳せたりしながら、くしゃくしゃになった時間割表を片手に履修の計画を企てたり、事務連絡だけで打ち止めになった語学講義を孤立無援の中、素数を数えて耐え忍んだり、申し訳程度に大学生のふりをして帰路に着いた。
 つまり、残念、私の土留め色の大学生活初日はここで終わってしまったとさ。おしまい。