太陽を見たことがない。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/02/08
- メディア: 文庫
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高熱と腹痛という風邪の爆発力を全身で受け止めつつ、伊坂幸太郎氏の死神の精度を読み終えたので今回はその読感を書いてみようかと思う。
短編にして長編。
伊坂幸太郎氏の作品は今回が初めてだったが全体的にすんなりと読めた。
人の死の一週間前に派遣され、七日間の観察で対象者の死を「可」とするか「見送り」とするか選定する。
この死神の設定に使い勝手の良さを感じた。加えて六話からなる短編集というのも読みやすさに一役買っている。
死神である千葉も確かにクールだが少しズレていて好感が持てたし、各話で登場する人物も嫌味がなかった。
中でも「死神と藤田」に登場する阿久津という青年が個人的に気に入った。
何というか人間離れした冷静さを持つ千葉(死神なので当然だが)と対照的に人間臭さが引き立てられており、青臭ささえも美しく感じる。
似たような位置づけで「旅路を死神」に登場する森岡という青年も好感が持てた。きっと森岡の場合は自分と同い年だからというある種の感情移入があったと思う。
それら魅力的な登場人物が織り成す一話一話が最後に繋がっていく過程はニヤリとした。それも人間とは逸脱している死神だからこそ紡げた結末なので余計に「ほお」と思える。
個性は諸刃。
全体を通して死神は個性的だったが、随所で「ん?」と思う場面があった。ネタバレになってしまうので詳細は書かないでおくが千葉の知識量についてだ。
一言でまとめると「それを知っていて、何故それを知らない」という場面が多々ある。
死神自体の設定は面白いが、そのバックグラウンドが曖昧模糊なので、そこらへんが理由なのだろう。
一つは自己形成について。死神というのだから人間でいう年齢だとか性別だとか、そういった概念はない。しかし自己形成に関しては人間と同じように思える。
つまり死神は知識や経験が各々に収束しているので全知全能でないのだが、それがどうにも極端すぎる。
これだけではいまいちイメージがつきにくいと思うので例をあげると「悪徳商法の手法を知っていて、自動車はガソリンがなくなると走れなくなることを知らない」などがそれに該当する。
上述の知識量、経験則については「ズレている」でまとめられると個性になるが、その個性も諸刃だ。
しかしその個性は諸刃だからこそ小さな違和感も取り除いていけば、より作品に深みを感じることが出来ただろうなと思う。